『剣窓』令和8年(2026)10月号
第11回 みちしるべ
ひらかれた剣道「範士」審査
全日本剣道連盟
会長 真砂 威
剣道・居合道・杖道の範士の審査は年1回、例年5月に実施されます。
今年の各道の範士合格者は剣道27人、居合道3人、杖道2人でした。
表題に掲げるように、このたびは剣道範士の審査について申し述べます。
今年の範士合格者は27人に上りました。
合格者名は本誌、本年6月号3頁に掲載。この合格者数は偶然にも昨年と同数でした。
範士合格者は、令和元年5人、2年5人、3年6人、4年8人、5年12人、6年15人と増加傾向で推移していましたが、
昨年、大幅な合格者増となったのに引き続き今年も同様に多くの範士が誕生することとなりました。
しかし、これは決して偶然のことではありません。
範士の審査について、ここに至るまでの経緯を少しくご説明いたします。
称号・段位制度は平成12年(2000)に大改革されました。
それまでの制度で、称号は現在と同じく錬士、教士、範士でしたが、段位は初段から十段まで設けられていました。
十段は、かつて昭和30年代に5人誕生したことがあります。
九段については平成10年(1998)の段階で23人存在していました。
しかし、実技審査がなく書類選考による九段審査は制度としての適正を欠き、信頼感において問題があるとされていました。
こういう経緯により新しい審査規則には九段、十段については記載しないこととし、範士が剣道界の最高峰という伝統的な立場を再確立しました。
実質、九段、十段の廃止です。
そして最高峰とされている範士ですが、これまでは年功序列的に授与されており、功績による特例範士や七段範士、更には死亡者への追授など、まちまちの条件による範士の授与があって、濫発状態を招いていました。
そういった経緯があり、新しい審査規則では「称号、段位を通じ、範士を最高位とする」という条文が盛り込まれました。そして範士の付与基準を「剣理に通暁、成熟し、識見卓越、かつ、人格徳操高潔なる者」と定められます。
さて、この審査規則は平成12年に施行されますが、思いのほか範士の要件が厳しく見立てられ、同年に行われた範士審査会では合格者は零という結果でした。
その後、平成13年3人、14年2人、15年2人という合格者で推移いたします。
しかし、このような少ない合格者数では、全国的に目立つ華やかな活動をしないかぎり、ほとんどの八段取得者は範士になることができません。
近年の合格者の増加傾向は、剣道界の組織的なものや全体の志気などを鑑み、審査員として自ずと合格者を増やす方向に心裡が傾いてきたものと思われます。
範士の審査員ともなれば、剣道界の命運を担う存在であり、また、その自負心をもって審査に臨む立場です。
昨年の範士審査会では、なんとかしなければ、の思いが沸点に達したのでしょう。
自然発生的に、各地方で地道に活動している人にも目を向けよう、という方向で審査がなされました。
その結果、27人の範士が誕生したのです。
範士審査会は、事前に審査員選考委員会で選ばれた10人の審査員で構成されます。
審査員10人の内訳は範士7人、学識経験者3人です。審査は、審査員10人中8人以上の合意により合格となります。
なお範士の審査員の氏名は公表していません。
範士の受審資格は、「教士八段受有者で、八段受有後、8年以上経過し、地方代表団体の選考を経て地方代表団体の長から推薦された者、又は全剣連の会長が適格と認めた者」となっています。
地方代表団体とは、各都道府県剣道連盟のことです。
範士の審査は、まず地方代表団体の長が付与基準に該当すると認めた者について、推薦書を提出し、全剣連会長に候補者として推薦します。
今年、地方代表団体の長から推薦のあった候補者は126人でした。
推薦書を受けた全剣連は、受審資格を備えた者について、推薦書を添付した候補者名簿を作成し、それを審査員に送付し予備調査を実施します。
予備調査は、
① 剣道人として実践してきた実績
② 指導者としての実績
③ 論文、講演録などの専門的業績
④ 人物、識見、剣理に対する評価
⑤ 剣道及びその他、武道修業全般に関すること
について、それぞれの審査員が予備調査票に基づいて行います。
全剣連は、審査員が作成した予備調査票を事前に回収し、調査結果を整理統合して審査会に付します。
以上のようなプロセスを踏んで範士の審査が行われます。
そして、本年の範士審査会においても昨年と同様の観点で審査が行われ、合格者27人という結果となって表れました。
これは剣道界における新たな潮流ではないかと思うしだいです。